贈与税申告
1. 贈与税とは?
人に財産をあげて、相手が了解して受け取った場合、受け取った人に贈与税がかかります。
贈与税の基礎控除額の年110万円まで贈与税はかかりませんが、年110万円を超えると贈与税の申告・納税が必要です。 贈与税は最高税率55%とかなり高い税金です。
人が財産を持っていれば死亡時に相続税がかかりますが、死亡前に贈与してしまうと相続財産がなくなるため、相続税が課税されません。贈与により相続税が課税出来なくなるので相続税の補完的な税金として贈与税があります。
もともと相続税も高い税金なのですが、これを補完する贈与税は更に高い税金となっています。
2. 相続対策としての贈与
相続税・贈与税とも高い負担率の税金です。
しかし、上手に贈与税の非課税や配偶者控除等の規定(下記3.5.6.7.8.)を利用すること等によって、贈与税・相続税のトータルで相続税の節税をすることが可能です。
3. 贈与税の申告
贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2通りの課税方式があります。
相続時精算課税を選択しない人は、暦年課税となります。
1. 暦年課税(1月1日から12月31日までの1年間で計算します。)
年110万円の基礎控除が毎年あります。これを超えないと贈与税はかかりません。
基礎控除を超えるときは申告が必要で、贈与税がかかります。
贈与税額の計算は下記の速算表にあてはめて計算します。
贈与税の速算表
平成27年度以降の贈与税の税率は、次の通り、「特例贈与財産」と「一般贈与財産」に区分されました。
【特例贈与財産用】(特例税率)
この速算表は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年1月1日において20歳以上の者(子・孫などの直系卑属)への贈与税の計算に使用します。
例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します。(夫からの贈与等には使用できません)
基礎控除、配偶者控除の後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
(例)父が20歳以上の子供へ5,000,000円の現金を贈与した場合
(5,000,000円-1,100,000円)×15%-100,000円=485,000円(百円未満切捨て) ・・・贈与税額
【一般贈与財産用】(一般税率)
この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、他人間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。
基礎控除、配偶者控除の後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
(例)兄が弟へ5,000,000円の現金を贈与した場合
(5,000,000円-1,100,000円)×20%-250,000円=530,000円(百円未満切捨て) ・・・贈与税額
2. 相続時精算課税
原則として贈与する父母や祖父母が60歳以上で、贈与される側は18歳以上の子や孫であることが要件で、2500万円まで税金がかからず贈与できます。2500万円を超えた場合は一律20%の税率がかかります。
ただし、相続があった場合にはこの贈与財産を含めて相続税の計算をし、贈与税額を控除します。
この規定の適用を受けるには、相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告期限内に提出する必要があります。
メリット
1. 暦年課税では無税では毎年110万円ずつしか贈与を行えないのに対して、相続時精算課税では一度に2500万円まで無税で贈与できます。なお、令和6年から相続時精算課税にも基礎控除110万円が設けられました。
2. 2500万円を超えた金額に対して20%の贈与税で済みます。(暦年課税の場合、1000万円を超えると40%〜と、かなり高い税率です。)
3. 相続税がかかる心配がないような方は、安心して贈与ができます。
4. 生前に相続時精算課税を利用してまとまった贈与をしておけば、亡くなられた後に相続人の間での係争を防げます。
デメリット
1. これで課税関係が終了しないで、相続が発生したときには相続財産として加算しないといけません。 暦年課税は相続開始前3年以内の贈与財産だけが相続財産に加算されるのに対し(改正により令和6年以降は最長7年間となります)、相続時精算課税適用財産は贈与税額の有無に関わらず全てを相続財産に加算しなければなりません。 (ただし相続時精算課税に係る贈与税は控除でき、控除しきれない金額は還付されます。) 相続税がかかりそうな場合は注意が必要です。
2. この相続時精算課税を選択してしまうと、従来の暦年課税にはもどれません。
(適用した贈与者以外の贈与ついては暦年課税を適用できます。)
3.景気の変動などによる被相続人の財産の価額の変動や相続税法の改正などで、将来的に相続時精算課税を行った事が相続税の有利・不利になるかは予想がつきにくいです。
(2022年12月15日このサイトの税務トピックス「相続時精算課税制度を使った贈与における注意点」をアップしました。ご参照ください。)
4. 贈与税の申告期限
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与を受けた人の住所地の 税務署に申告書を提出し、納付税額があるときは3月15日までに納付します。
暦年課税も相続時精算課税も申告期限・納付期限は同じです。
5. 住宅取得等資金の贈与の非課税
令和8年12月31日までに、18歳以上の者が、親や祖父母から住宅取得等資金に充てるための贈与を受けた場合、500万円から1000万円を限度(年度や要件により異なります)として贈与税がかかりません。
住宅取得等資金とは、住宅用家屋の新築・取得・増改築等又はその住宅用家屋の敷地の用に供される土地等の取得のための対価をいいます。 この規定は一定の書類を添付して、贈与税の申告をする必要があります。 暦年課税と相続時精算課税のどちらでも併せて利用できます。
暦年課税の場合 500万円から1000万円(要件により異なる) + 110万円 = 610万円から1110万円まで非課税
相続時精算課税の場合
500万円から1000万円 +110万円 +2500万円 = 3110万円から3610万円まで非課税
※令和6年から相続時精算課税にも基礎控除110万円が設けられました。
※贈与を受けた翌年の3月15日までにその住宅に居住するか、又はその日までに遅滞なく居住する事が確実であることが要件となります。
※前年以前のいずれかの年に既ににこの規定の適用を受けている場合は、その受けた金額のうちの一定の部分は控除されます。
6. 贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上である配偶者から、居住用不動産又は居住用不動産の取得のための金銭の贈与を受けた場合、2000万円の控除があります。 基礎控除も足すと2110万円まで非課税で贈与できます。
居住用不動産とは、専ら居住の用に供する土地等又は家屋をいいます。
この規定は一定の書類を添付して、贈与税の申告をする必要があります。
※贈与を受けた翌年の3月15日までにこの居住用不動産に居住し、又はその日までに贈与を受けた金銭で居住用不動産を取得し、その後も引き続き居住する見込みである必要があります。
※前年以前のいずれかの年に、その配偶者からの贈与について、すでにこの規定の適用を受けている場合は適用できません。
7. 教育資金の一括贈与の非課税
令和8年3月31日までの間に30歳未満の者が、祖父母などから教育資金として一定の方法により贈与を受けた場合は、贈与税が非課税となります。
非課税となる金額は、学校等に直接支払われる場合は最大1500万円までで、そのうちの500万円までに限っては学校等以外の習い事や塾などに使われる場合でも非課税となります。
この規定の適用を受けるには、教育資金を教育資金管理契約を締結する金融機関に預入しなければなりません。また、贈与を受ける者が金融機関の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を所轄税務署に提出しなければなりません。
教育資金の支払いをした場合は、その支払いに充てた領収書等を取扱金融機関に提出しなければなりません。
贈与を受けた者が30歳に達した日に教育資金の残額がある場合は、それに贈与税が課せられます。
8.結婚・子育て資金の一括贈与の非課税
令和7年3月31日までの間に18歳以上50歳未満の者が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、父母や祖父母から結婚・子育て資金口座の開設等の贈与を受けた場合には、その贈与を受けた者ごとに1000万円までの金額については、金融機関等の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となります。
契約期間中に父母や祖父母が死亡した場合は、死亡日における上記申告書に記載した金額から実際に結婚・子育てで使った金額を控除した残額が相続等により取得したこととされます。
また、贈与を受けた者が50歳に達した場合等は、上記残額が父母や祖父母から贈与があったこととされます。
9. 贈与税の非課税財産
贈与財産の中には、性質、目的、国民感情、社会政策的な面から非課税となっているものがあります。その一部を掲げますので、ご参考にして下さい。
1. 法人から受けた贈与財産 (所得税が課されます)
2. 扶養義務者相互間において、生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められるもの
3. 特定公益信託から交付される学術奨励金等で一定のもの又は奨学金等
4. 地方公共団体が実施する心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の受給権
5. 特定障害者が受ける信託受益権で6000万円までのもの(特別障害者以外の者は3000万円)
6. 香典、祝金、見舞金等で社交上必要と認められるもの
7. 資力を喪失した人が定額譲渡または債務免除により受けた利益
8. 離婚による財産分与によってもらった財産(居住用不動産など現金以外のものについては、譲渡所得税がかかる場合があります)
10. 納税猶予の利用
「節税対策」のページでも記載したように、農業、林業や同属会社(法人)については、贈与税や相続税の負担の重さにより後継者が経営困難となり、農地、山林の売却や会社の閉鎖を余儀なくされる可能性があります。
その救済措置として、農地、山林や非上場会社の株式については一定の条件を満たすことにより、贈与税や相続税が猶予(免除)されます。 この制度を利用すれば、後継者は高額な贈与税を支払うことなく経営を承継できます。
11.贈与の注意点
贈与税の非課税が毎年110万円ありますが、これを利用して
毎年110万円 × 10年間 = 1100万円
と10年間にわたって贈与し、これを例えば3人の子供にすると
1100万円 × 3人 = 3300万円
となりますが、この場合は最初から1100万円ずつ贈与するつもりだったとみなされ、初年度に1100万円に対して贈与税を課せられることがあります。
また、親が子供に預金を贈与するつもりで、子供名義の預金を作っていても、子供がその事実を知らなかったり、預金の管理を親がしている場合、贈与になりません。
名義だけが子供で、実質は親の財産とみなされてしまいます。
これらのように、贈与の手続きは慎重にしないと節税対策をしているつもりが出来ていなかった、というようなことになりかねません。
贈与税は税率も高く、かつ後々の相続税に影響する可能性もあります。
一方、相続時精算課税や住宅取得についてなどの特例規定は有効に利用できれば節税や財産移転を円滑に行えます。
贈与税の有利・不利判断や各種規定の適用には、専門的な知識を要する事があります。
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