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役員退職金についての基礎知識

 

1.役員退職金の目安

(1)平均功績倍率法  

 長く会社で役員を勤めた方が退職されるとき、役員退職金をもらうことができます。ただし、その金額は一般的に妥当と認められる金額でないと、法人税法上の損金として認められない可能性があります。一般的な算定方法としては、平均功績倍率法がよく用いられます。

 <平均功績倍率法>  

役員退職金の妥当な金額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 平均功績倍率

 

  平均功績倍率は、同業種で事業規模が類似する法人の平均値を適正値とするとされており、社長であれば3倍、取締役は2倍といったような倍率を用いて計算します。

 この平均功績倍率は国税庁などで公表されているわけではないため、実際には企業が独自で類似法人の平均功績倍率を調査することは難しく、通常2〜3倍の倍率を役職ごとにあらかじめ決めておき用いることが多いです。

 功績倍率や金額に明確な基準はなく「一般的に妥当」というぼんやりした基準が用いられるため、功績倍率が3倍を超えて高い場合や金額が高額な場合には、税務調査で指摘される可能性があります。どういった経緯で金額が算定されたか、説明できるようにしておく必要があります。

 

(2)1年当たり平均額法   

 上記の平均功績倍率法ですが、役員の最終報酬月額がゼロであるケースでは使えなくなってしまいます。そんな場合には、1年当たり平均額法という計算方法があります。

 <1年当たり平均額法>

  同業類似法人の1年当たり退職金平均額 × 勤続年数

 

 しかしながら、類似法人の退職金の平均額を企業が独自で入手することは通常困難で、実務上は使いにくいものとなっています。

 

2.損金算入時期   

 役員退職金の損金算入時期は、株主総会の決議等の日の属する事業年度とされています。ただし、支払った日の属する事業年度において損金経理をしたときは、これを認めるとされています。つまり、未払計上が認められるということです。期間は特に定められていないですが、あまり長期になると退職年金ではないかと疑われるので、一般的には3年くらいが目安とされています。

 

3.みなし退職   

 役員が高齢になり常勤役員から非常勤役員になる場合など、分掌変更を理由に退職金を支払うこともできます。下記のような例が国税庁HPに挙げられています。

 

  (イ)常勤役員が非常勤役員になったこと。(代表権がないこと)

  (ロ)取締役が監査役になったこと。

  (ハ)分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少したこと。  

 

国税庁HP「使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5203.htm

 

 上記のような役員の分掌変更があった場合には、みなし退職があったものとして退職金を支払うことができます。ただし、上記の例に形式的に該当したとしても、分掌変更後も実質的に法人の経営上主要な地位を占めていると認められる場合や、もともとの給与が高く50%以上減少させても他の役員よりも給与が高い場合などは、権限に実質的な変更はないものとされて、退職金が否認され役員賞与扱いとなる場合があるので、ご注意下さい。  

 また、通常の退職金と異なり、未払計上は認められていません。

 

4.退職時の手続き

  役員や従業員が退職した場合には、「退職所得の受給に関する申告書」という書類を退職者に記入・押印してもらいます。これには、入社年月日や勤続年数などを記載します。宛名は税務署長や市町村長になっていますが、会社保管をするもので、実際には提出しません。この申告書の提出がない場合は、一律20.42%の源泉が必要となりますので、提出してもらう必要があります。住民税は提出がない場合でもある場合でも同じ計算です。また、提出があっても支給額が退職所得控除を上回る場合には、所得税と住民税の必要があります。

  その後、「退職所得の源泉徴収票」を作成して、退職後1か月以内に税務署と市町村に提出しなければなりません。ただし、税務署へは、退職者を1年分まとめて翌年の1月末までに提出しても大丈夫です。また、役員の場合は提出が必要ですが、従業員の場合は提出が不要ですので、本人交付のみとなります。

 

5.退職所得の計算方法   

 退職所得は下記の式にて算出した所得によって段階的に定められた税額をかけた額が源泉徴収され、分離課税で確定申告は不要です。ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しておらず、20.42%の税率で源泉徴収された人は確定申告が必要となります。

 <退職所得>

  (退職金-退職所得控除)× 1/2 = 退職所得の金額

 ただし、特定役員退職手当等といって、役員等の勤続年数が5年以下の場合には、上記の算式の「×1/2」ができないこととなっています。

 

<退職所得控除>

  勤続年数20年まで 40万円 × 勤続年数(80万円未満の場合は、80万円)

  勤続年数20年超  800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)

  (注)勤続年数は1年未満の端数を切上げします。

 

 退職所得控除の控除額は大きく設定されていて、退職者の税負担が重くならないように考慮されています。退職金を年金で受け取る場合には、退職所得ではなく公的年金と同じ扱いの雑所得となり、退職所得控除は使えません。

 

  また、死亡によって、死亡後3年以内に支払が確定した死亡退職金が相続人に支払われた場合は、所得税ではなく相続税の課税対象となるため源泉徴収は不要です。この死亡退職金は、相続税法上「500万円×法定相続人の数」までは非課税とされています。

 

6.まとめ

  役員退職金は金額が大きく節税効果も高いため、税務調査の論点になりやすいです。支給にあたっては退職の事実が認められること(退職後、本当に経営にタッチしていないこと)に加え、金額の妥当性や他の役員の退職金との一貫性などに気を付ける必要があります。

 役員退職金が否認されると役員賞与扱いとされ、事前届出のない役員賞与は法人税法上損金とならないだけでなく、受け取った退職者も退職所得控除が使えず、高額な所得税を支払うこととなりますので、注意が必要です。

 

 (2020年1月記載)

 

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