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遺言のすすめ

  

1.はじめに

 遺言とは、自分が亡くなった後の財産の行方等について、遺言者の意思表示をしたものをいいます。遺言を書いておくことで、相続人でない人にも一定の財産を渡すことができます。
遺言がない場合には、民法に定められている法定相続人によって遺産分割協議を行い、遺産を分けます。当然、少しでも多く財産をもらいたいと思うのが人間ですので、この分け方をめぐって相続人がもめてしまうということがよく起こります。

 

遺産分割訴訟における遺産額割合

表1「遺産分割訴訟における遺産額割合」 出典:最高裁判所『司法統計年報(家事事件編)』


 上の表は、遺産分割により起きた訴訟の遺産額の割合です。相続争いと聞くと、1億円を超えるような財産がある場合に起きるようなイメージがありますが、実際には、1千万円以下が33%、5千万円以下が43%と、5千万円以下の財産額が全体の7割以上を占め、財産額が少ない方が相続争いが多く起きていることが分かります。


 こういった親族間での相続争いを未然に防ぐためにも、遺言は大変有効な手段です。我が国においては、遺言の作成率が諸外国より低いといわれていますが、家族の形が多様化する中で、相続争いを未然に防ぎ、お世話になった人に財産を渡すなどの意思表示ができる遺言が果たす役割はますます重要になっていくでしょう。

 

2.遺言の種類
 遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言という3種類の方法があります。

 

(1)自筆証書遺言 
 自筆証書遺言は、遺言者が紙に、遺言書の全文を自筆する遺言のことです。遺言の内容はもちろん、財産目録も全部手書きして、かつ、日付、氏名、押印をすることが求められます。
 ただし、民法改正により、2019年1月13日からは、財産目録をパソコン等で作成したり、通帳のコピーや不動産の謄本を目録として添付する方法が認められることとなりました。その際、財産目録には全てのページに署名押印が必要です。
 また、2020年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局にて保管してもらえる制度が始まりました。自宅で遺言書を保管していると、紛失してしまったり、相続人がその存在に気付かないなどのリスクがありましたが、保管制度を利用すれば、そうした心配がなくなります。ちなみに、自筆証書遺言の場合、遺言を発見した人は、遺言書について家庭裁判所の検認を受ける必要がありましたが、この制度を利用した場合は検認が不要となります。

 

【自筆証書遺言のメリット】
・自分で書けば良いので、いつでも何度でも書ける。

・費用がかからない。

 

【自筆証書遺言のデメリット】

・自分で書くため、法的に不備があっても気づかず、遺言が無効になることがある。法務局の保管制度を利用した場合でも形式面での確認はしてもらえるものの、内容が適正かどうかまでのチェックはされないため、相続登記手続き等の際に不備があることがある。
・保管制度を利用しない場合には、遺言書を自宅などで発見した人は家庭裁判所で検認の手続きをしないといけない。
・保管制度を利用しない場合には、遺言書を発見した人が遺言書に自分に不利なことが書いてあることに気づくなどして、遺言書を破棄したり、改ざんしたりする可能性がある。
・基本自分で書くか、パソコンで作成した場合でも本人の署名は必要になるため、病気や高齢の方などで自筆や自署が困難な場合は利用できない。


(2)公正証書遺言
 公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の内容を口述し、公証人がそれに基づいて作成する遺言のことをいいます。公証人とは、裁判官や検察官、弁護士などを30年以上行ってきた経験を持つ法律の専門家で、遺言の内容についての助言を受けることもできますし、複雑な内容の遺言であっても法的に不備のない遺言書を作成することができます。この遺言作成時には、証人の立合いが2人必要です。証人には未成年者や相続についての利害関係がある人はなれないため、証人が見つけられない場合には公証人役場で紹介を受けることもできます。     

 自筆証書遺言と違って、遺言者が高齢であったり、病気で自筆することが困難である場合にも、公証人が代筆することができます。また、原則は公証人役場に出向くことが必要なのですが、病気等により出向くことが困難である場合には、公証人が自宅や病院に出張して遺言書を作成することもできます。
 さらに、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、遺言書が紛失したり、改ざんされたりといった心配がなく、相続開始後の家庭裁判所での検認も不要です。震災等により原本が滅失してしまっても、復元が可能なように原本の二重保存システムも構築され、安心です。
 このように、自筆証書遺言より安全確実な公正証書遺言ですが、費用として公証人手数料がかかります。この費用は下記のように財産の額によって異なります。

 

公証人手数料令第9条別表 

表2「公証人手数料令第9条別表」 出典:日本公証人連合会HP

 

 上記の手数料は財産をもらう人ごとに算出し、合算をします。また、財産総額が1億円以下のときには1万1000円が加算される他、公証人が出張する場合や証人を紹介してもらう場合などには別途手数料が必要です。

 

【公正証書遺言のメリット】
・公証人が作成するため、法的に不備のない遺言書が作れる。
・公証人役場に保存されるため、紛失や改ざんのおそれがない。
・遺言書につき、家庭裁判所の検認を受ける必要がない。
・遺言者が高齢や病気で自筆が困難であっても、遺言が作成できる。


【公正証書遺言のデメリット】
・費用がかかる。
・相続の利害関係者以外の証人が2人必要。
・戸籍謄本や住民票などの書類が必要。
・公証人役場に出向くか、自宅等に来てもらう必要がある。

 

(3)秘密証書遺言
 秘密証書遺言は、遺言者が遺言の内容を記載した書類に署名押印をした上で、封筒などに入れ、遺言書に押印した印鑑と同じ印鑑で封印した後、公証人と証人2人の面前で、自己の遺言書であることや氏名住所を述べます。公証人がその旨や日付を別の用紙に記載し、さらに、遺言者、証人が署名押印して、その用紙を遺言の入った封筒に貼り付けて作成します。
 自筆証書遺言と違い、遺言の内容は自筆でなくても、パソコン等を使ったものや第三者が書いたものでもかまいません。
 上記の手続きを行うことで、その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることは明確にでき、かつ遺言の内容を公証人や証人にも知られることがなく、誰にも秘密にすることができます。ただし、公証人がその遺言書の内容を確認することはできないため、遺言書の内容に法律的な不備があっても分かりません。
 秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同じく、自宅などで保管し、家庭裁判所の検認が必要です。ただし、民法改正により自筆証書遺言は法務局での保管制度ができましたが、秘密証書遺言はその対象にはなりませんので、注意して下さい。


【秘密証書遺言のメリット】
・誰にも秘密の内容で遺言書を作成でき、その存在は公証人に証明してもらえる。
・公正証書遺言より費用が安い。
・自筆する必要がない。パソコンや第三者の代筆でも良い。


【秘密証書遺言のデメリット】
・公証人の手数料がかかる。11,000円。
・証人が2人以上必要となる。
・法的に不備があれば、無効となるリスクがある。
・遺言書を紛失するおそれがある。
・家庭裁判所の検認が必要。

 

3.遺言の必要性が高い場合
(1)夫婦の間に子供がいない場合
 夫婦の間に子供がいない場合、夫が死亡した場合の法定相続人は、夫の両親もなくなっている場合、妻と夫の兄弟となります。長年連れ添った妻に全部の財産を渡したいと思うことも多いでしょう。そんな場合には遺言を書いておけば、兄弟には遺留分がないため、財産の全部を妻に残すことができます。
(2)内縁の妻がいる場合
 長年夫婦として連れ添っていても、婚姻届けを出していない場合には、内縁の妻となり法定相続人にはなれません。そのため、内縁の妻に財産を残したい場合には必ず遺言が必要となります。
(3)子供の配偶者に財産を分けたい場合
 介護などをしてくれた息子の嫁などに財産を残したいと思う場合にも、子供の配偶者は法定相続人ではないため、必ず遺言が必要となります。
(4)再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合
 先妻の子と後妻がいる場合は、感情のもつれから相続争いに発展することも多いため、遺言を残しておく必要が高いでしょう。
(5)孫に財産を分けたい場合
 孫は相続人ではないため、かわいい孫に財産を残したいといった場合にも遺言が必要です。
(6)相続人が全くいない場合
 相続人がいない場合には、遺産は国庫に帰属します。相続人ではないが生前お世話になった人に財産を残したいときや、任意の団体に寄付を行いたいときには遺言が必要です。

 

4.まとめ
 家族間での無用な争いを避けるためにも、遺言はとても重要です。もし、遺言を書く本人が認知症になった場合には、遺言を作成しても無効となってしまうこともあるため、早めの対策が必要です。
 また、遺言の内容によっては、相続税の負担が増えてしまうこともありますので、相続税についても考慮した遺言作成をご検討されたい場合は、ぜひ弊所へご相談下さい。

 

 

 (2020年9月記載)

 

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